第十三回 無音のかたち

 

風の強い真昼 逢いに行く こんな日は 食事から
早く戻る  川に沿って 歩いていると 背の高い紳士
「向こうの方で 白いのが あおられていた」 さっきまで
私がいた 開かれた道の終わり 話している間に 第一便 数十秒
早かったら 眼の前へ ふわり 風を受け 降りてきた 水面
接する直前 黒い脚を開き 四~五歩 歩く 羽を しまう

浮かぶ彼らは 物静か 思い出すように 首を伸ばし ひしゃげた
ような声 伸びをして羽ばたいて 鳴き交わし クラス討論会を したりする
その後も数羽ずつ「今日は風 凄く 強かったわ」 降りてすぐ 感想を
述べ合って そんな風にヒトが想う 隙間  許してくれる

こんなに好きになって カラスに悪い 彼らはいつもいる 午前三時
鳴き始める 集積所へもぐりこむ 自転車の籠の荷物を 取られた
こともある 太郎さんは飼っていた というのだけれど

質感 だろうか 大きさも 哺乳類くらいの 懐かしさ しっとり
見える羽毛  やがて 飛び去っていく  夏から待っていた でも
慣れない私 釣りのボートと同じ 遠慮をして 彼らのいない午前中 訪れて
八幡橋 大御堂 石棺も  枯れた庭のこと 職員の方が「淋しくは
なかったですか?」尋ねて下さった記念館も 眺めていた
大変 満たされて  あの朝 までは

マイナス五度の未明 思い立ち 寄り添ってみる 夜明け前から 二時間と四十分
小さな黒い鳥 大きい鳥 見分けがつくようになる 朝の相談 準備運動 澄まし顔
浮かんでいたのに 羽ばたきを始め 加速して 離陸していく その唐突な
いくつものチーム Ⅴ字になって お腹が田圃 そう思えた町だから
ずっといる人々も 鳥たちも 安心して 選ぶのかも かつて
生まれ育った人 「孤島」と話していた それは ある意味
理想郷  今はもう 違うのかも 知れないけれど

帰り路  福田 堀兼 あまりにも の 砂嵐 車内は穏やか
白鳥の体温を 持ち帰る  そっと 崇拝して


「おはよう」©しっぽ

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