蟹江杏アトリエ日記vol.9 理想的なデート

あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

「北国の夜」
 

私の20代だった頃のプライベートは、たとえデートに誘われたとしても
男性から奢って貰った経験がほとんどありません。
そうこうしているうちに、男女平等にもとづき
男性が胸を張って割り勘を言い出せる昨今の時代がやってきました。

当時からひねくれものだった私は、
男性から素敵な高級レストランで
ワインで乾杯みたいなデートプランを指定されると、
はなから疑ってかかり、
「コイツはカッコつけているぶん内容のない男に違いない」
と決めつける逆差別傾向にあったので、
今考えるとだいぶ損したなあと思います。

しかも、私も当時から田嶋陽子先生さながら
男女は対等であるべきとうたっていたので、
奢られると居心地が悪いとし、
意固地になって半額支払ったりして可愛げがなかったに違いないのです。

だからといって、
「あんずちゃん、割り勘してくれるんだね。じゃあ、一人7525円で」
なんて端数まで請求されたらされたで、
内心「なんてせこいヤツだ、そのくらいは男性が払うべきじゃないのか!」と思う、
という大きな矛盾。

この事例だけとっても私のほうがはるかに男性蔑視していたことに、
今となっては気付きますが、
実はこれって意外と女性のあるあるだったりしませんかねえ。
しないか・・・私だけか。

ともかく、最近は当たり前の様に、
デートで男性も「割り勘しよう」と言い出せる人が多くなり
むしろ私なんかからすれば、
そのセリフが自然に言える人はインテリジェントに見えてしまうし、
「え、まさか奢って貰えないの!?」
なんて機嫌悪くなる女性はなんだか古臭い面倒な女に見えてしまうという・・・
これも時代ですかね。

日本でもジェンダー問題はまだまだ発展途上なんて言われながらも、
少しずつ緩やかな変化をしてきているのは日常的に感じています。

そこで皆さんが興味ない話だとはわかっていながら
大変恐縮ですが、
あえて私、この時代に生きる40代独身女性代表になったつもりで
コロナ禍だからこその妄想をしてみたいと思います。
2021年 私がどんなデートをしてみたいか、
列挙してみようかと思いました。

・・・・・・。

まず、この時点で筆が止まる自分に驚きました。
絞り出すことにします。

まずは美術館で待ち合わせして・・・
と思いましたが、一人で見たいしな。
遊園地って腰痛めそうだし。
映画もやっぱり一人で見たいな。

でも、食事は誰かと一緒がいいですね。
都会の高層ビルの最上階高級フレンチは私の等身大じゃないし、
赤提灯もガヤガヤしていてゆっくり話せそうにない。
やっぱり、森好きの私には、郊外の緑の中にぽつんとある
品が良くて、それでいてどこか懐かしい感じのするレストランが良いな。
トカイナカがピッタリね(本誌の宣伝ではありませんっ)。

個室は会話に詰まるので、
他のお客様が多少なりとも居るフロアの席。
良い季節ならテラス席なんかも魅力的。

料理は、とても丁寧に作られた外国の家庭料理が良い。
聞いたことのない風変わりな名前の料理を見つけて、
「これどんなお料理かしら」と言いながらオーダーするのが楽しいでしょう。

メニュー表にはお酒の種類が豊富で、
飲んだことのない種類のアルコールがあると尚更素敵。
会話に詰まっても、目の前のお酒の話ができるし・・・。
なんかさっきから会話に詰まる前提だな・・・。

ともかく最初のデートなんだし、ほろ酔い程度に(いろいろ露呈する前に)。
品行方正に解散は早め。
もちろん、支払いは割り勘で。
ただし、20代のあの頃より私も考え方が柔軟になったということで、
お相手が「君に奢りたい、どうしても奢ってあげたいんだ!」
とおっしゃるのでしたら、やぶさかではございません。

解散後は、まっすぐお家に帰って、楽ちんな格好に着替えて、
今日の楽しかった時間の余韻に浸りながらの
独り酒タイムで飲む角瓶とピリ辛柿の種が
さぞかし美味しいことでしょうよ。

って、なんだかんだ言っても、
要は私は山ん中で酒飲みたいんだなってことに気がつきました。
しかも行き着く先は独り酒。
やはり、私が40代独身女性代表として発言したのは出過ぎた真似でした。
こりゃこの文章がアップされたら、誰からも誘われなくなりそうだな・・・。
しかも一生割り勘だな。

皆さんの理想のデートプランはどんなでしょう?
なにはともあれ、
誰かと一緒に素敵な時間を過ごせることは大きな喜びです。

男性も女性も障害がある人もない人も、
それぞれの小さな垣根を沢山越えて、
お互い一緒の空間で気持ちの良い時間を過ごせることは大切なことですから。

「北国の夜」

タイトル:「北国の夜」
サイズ:220×190mm
シート価格(税込):33,000円
額装価格(税込):40,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量: 5枚限定
お届けの目安:約3カ月



蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引している。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏
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